後藤洋の吹奏楽の部屋

第7回:コンクール自由曲におすすめの新譜(1)
 お待たせいたしました! 昨年出版されたばかりの新しい曲の中から、今回は吹奏楽コンクールの自由曲に好適な注目の作品をまとめてご紹介します。いずれも中級程度のレベルで、25人程度かそれ以下で演奏可能な曲。小編成の中学校バンドに特におすすめです。

 スクール・バンドのために内容の高い作品を書き続けているベテラン作曲家シェルドンが、ペンシルヴェニア州ライカミング郡の中学校選抜バンドのために2012年に作曲した作品です。曲名が示している「川」は、ニューヨーク州北部に源を発し、アパラチア山脈を横断しながらペンシルヴェニア州内を曲がりくねって進み、メリーランド州でチェサピーク湾に注ぐ大河、サスケハナ川のこと。ライカミング郡内を流れるこの川にインスピレーションを得たシェルドンは、川が蛇行する実際の情景に、「われわれも自分の心の中の『曲がり角』の向こうに希望に満ちた未来を見出したい」という願いを重ね合わせた、と述べています。
 曲はA(急)〜B(緩)〜A(急)の3部分から構成されており、Aではトランペットが演奏する快活なテーマと木管の伸びやかな旋律が対比され、Bでは抒情的な旋律が美しく歌われます。この中間部は非常に印象的で、3度の転調が効果的に使われ、豊かな和声と音色を巧みに使い分けたオーケストレーションによって、色彩豊かに仕上げられています。曲全体は無駄なくすっきりと仕上がっており、コンサートのオープニングにも好適です。
 クラリネット、アルト・サクソフォーン、トランペット、トロンボーンが2パートで、他の楽器は1パートずつという小編成。打楽器はスコアどおり演奏すると6人必要です。

 スパークといえば、最近では《宇宙の音楽》が日本ではよく知られているため、難しい曲を書く人、と思われがちですが、教育的な内容の作品もたくさん書いています。この《イギリス民謡による3つの小品》も、やさしく、親しみやすく、少人数でも演奏可能な注目の作品です。
 アングロ・ミュージックから出版されているスパークの初級バンドのための作品は、いずれもフルート、オーボエ(省略可能)、クラリネット1と2、アルト・サクソフォーン、トランペット1と2、それに打楽器パートのみ楽器が指定されており、他は「テナー・パート」(クラリネット、テナー・サクソフォーン、ホルン、トロンボーン、ユーフォニアムで演奏可能)と「バス・パート」(バスーン、バス・クラリネット、バリトン・サクソフォーン、トロンボーン、ユーフォニアム、テューバ、コントラバスで演奏可能)という、いわば「セミ・フレックス編成」で書かれているのが特徴です。人数や編成が十分でないバンドでも演奏を楽しむことができる点がありがたいですね。ピアノのパート(省略可能)もあるので、不足な音を補うこともできます。
 タイトルが示すように、3つのイングランドの民謡を素材にした小さな組曲で、第1曲〈お父さんのために踊ろう〉はシンプルな旋律が各楽器に受け渡されてカノン風に展開され、第2曲の〈おおウェイリィ、ウェイリィ〉ではトランペットで歌われた旋律が後半はコラール風に変化します。第3曲〈ボビー・シャフトー〉はかわいらしいマーチ風の音楽。ここではさまざまな楽器のソロが顔を出します。各楽器の音色を生かすため無駄な音の重複は避けられ、サウンドはきわめて明晰。合奏のバランスづくりや音楽表現の教材としても活用できるでしょう。

 スペインの作曲家フェルランは、日本では交響曲《キリストの受難》などの大作で知られていますが、創作の中心は実はグレード2〜3の作品で、この新作もそのひとつ。ヨーロッパに伝承するさまざまなおとぎ話のイメージをもとに書かれています。
 曲は静かに始まり、懐かしさを感じさせる穏やかなコラール風の楽想が発展して速いテンポに転じ、軽快な伴奏に支えられて伸びやかな旋律が歌われます。それに続くのは、サティの《ジムノペディ》を連想させる静かで幻想的な中間部。そして再び速いテンポの快活な音楽に戻り、最後はコラールの楽想が再現して、堂々と終わります。
 場面は次々に変化しますが、形式的には均整がとれており、旋律が美しく、速い部分も騒がしさがなく上品で、とても趣味のよい作品です。中学校の小編成バンドや小学校のバンドに特におすすめ。他のフェルランの作品と同様、転調の表現が効果的な演奏のポイントとなるため、この曲に取り組むバンドは特にハーモニーの感覚を磨きたいですね。
 出版社が定めたグレードは2ですが、実際にはそれよりもやや難しいので、ここでは2.5としました。

 交通事故で他界したふたりの生徒を悼んで、オハイオ州にあるタスロー高校のバンドから委嘱された作品。しかし音楽は——冒頭こそ悲しみが表現されているものの——明るさと活力に満ちており、作曲者の言葉を引用すれば「生命そのものと、生きる喜びと、喪失を経てのちに訪れる幸福への賛歌」となっています。「上昇」を意味するタイトルは、以上のような作品のコンセプトが上向音型の多用によって表現されていることから付けられたのでしょう。賛美歌〈公明正大なる主イエスよ〉が音楽的な素材として用いられているため、一種のコラール変奏曲のような趣があります。
 曲全体は強い悲しみが表現された導入部から深い憂いに満ちた経過部を経て、シンコペーション音型が連打される快活なヴィヴァーチェの主部となり、途中で賛美歌が本来の姿で現われ、経過部の旋律と組み合わされて壮麗に発展し、その後ヴィヴァーチェが再現されて力強い終結を迎えます。多様な音楽的情感をバランスよく配し、高い密度で構成した、非常に内容豊かな秀作で、このグレードの作品の中では今年最も注目に値する作品のひとつと言ってよいでしょう。演奏する側も、聴く側も、多大な感銘を受けるに違いありません。
 編成はほぼ標準的ですが、ホルンとトロンボーンは2パートずつ。打楽器は6〜7人要求されています。

 通常のコンサート・バンドの編成で1990年に作曲された作品ですが、今回作曲者自身によってフレックス編成用の楽譜が作られ、新たに出版されました。
 曲名は、コネティカット州にあるネイサン・ヘイル中学校コンサート・バンドの委嘱で作曲されたことによるものですが、この校名がアメリカ独立戦争の英雄、ネイサン・ヘイル(1755-76)に由来していることから、作品はヘイルの生涯における重要な場所や出来事を——トリロジー(三部作)というタイトルが示しているように——3つの楽章で描くというコンセプトになっています。
 第1楽章〈イントラーダ〉:1775年7月にヘイルがコネティカットで尉官として召集され、ボストン包囲戦に参加した史実にインスピレーションを得た、ファンファーレ&プロセッショナル風の音楽。この楽章のみ取り出して式典などで演奏してもよいでしょう。
 第2楽章〈間奏曲〉:ヘイルがイギリス軍に捕えられ、処刑された場所(現在のニューヨーク)に建立された記念碑と、死の直前の有名な言葉「私が祖国のために捧げる命がひとつしかないことを悔やむだけだ」から喚起されるイメージによる、ゆっくりとした楽章。美しい和声が印象的です。
 第3楽章〈フィナーレ——レンジャー部隊〉:ニューヨークを守ったレンジャー部隊を指揮するヘイルの奮闘が力強く描かれ、最後は堂々と終わります。ひとつの主題がさまざまに性格を変えていくさまが聴きどころです。
 アメリカ史に基づいた愛国的な内容であり、また音楽的にはそれほど派手でないことから、この作品は日本ではこれまでほとんど注目されていませんでした。しかし音楽としては非常によくまとまっています。このような佳作がフレキシブルな楽器編成で演奏できるのはありがたいですね。
 この曲が含まれるハル・レナードの「フレックス・バンド・シリーズ」については、これまでにもご紹介してきましたから皆さんよくご存じでしょう。さまざまに楽器を組み合わせて、5つのパートと打楽器(この曲では5人程度を想定)で演奏できるようになっています。楽器の組み合わせ方次第で響きも、難易度も、演奏効果もかなり変わりますから、それぞれのパートへの楽器の振り分けは慎重に。
 また、通常編成版の楽譜もあるので、注文の際は混同しないようにご注意ください。

 これもさまざまな楽器の組み合わせで演奏できる、バーンハウスの「ビルド・ア・バンドBuild-A-Bandシリーズ」の中の新譜。こちらは4つのパートとバス・パート、それに打楽器パート(スコアどおりに演奏すると5人)で演奏できるように作られています。オリジナルは1992年に出版され、中学校の、特に小編成のバンドで盛んに演奏された作品ですが、今回フレキシブルな編成で演奏できるように改編されました。急〜緩〜急の3部構成で、同じテーマが何度も繰り返されながら盛り上がっていく、というシンプルな仕掛け。音楽の流れが一貫しており、旋律が非常に印象的で、強い説得力のある作品です。少人数のバンド、編成のアンバランスなバンドに喜ばれるでしょう。キーボード(ピアノ)のパートもあり、足りない音があれば補うこともできます。
 すべての楽器が吹きっぱなしになるのではなく、適宜休みを作ってサウンドに変化を与えることが、楽器を振り分ける際のポイントです。
 通常編成版もあります。

 アメリカの中学校・高校では吹奏楽活動は音楽の授業の一部です。そこでは吹奏楽への取り組みを通じて、楽器の演奏だけでなく音楽全般について、さらに文化や歴史についても学びます。結果的に、さまざまな時代や地域の文化や音楽様式に基づいた作品が教材として生み出され、授業で活用されることになるのです。
 この作品もそのような目的で作曲されたものでしょう。ヘンリー8世とエリザベス1世を頂点とするイギリス絶対王政の時代を築いたテューダー王朝(1485-1603)のイメージを音楽化した、3つの楽章からなる小規模な組曲。各楽章はいずれもルネサンス時代の舞曲のスタイルを模して書かれており、木管と金管の音色が鮮明に対比されているのが特徴です。
 第1楽章〈ハンプトン・コート〉はヘンリー8世の宮廷の様子を描写しており、《グリーンスリーヴズ》に似た3拍子の舞曲に、快活な2拍子の舞曲が続きます。第2楽章〈善き女王エリザベス〉は優雅で素朴な、しかし途中から威厳に満ちた雰囲気となる2分の2拍子の舞曲。そして第3楽章〈コブハムの狩り〉は、狩猟の様子を描いた8分の6拍子の活気ある音楽です。コブハムは現ロンドンの郊外南西に位置し、王家の広大な狩り場がありました。
 教材として作られたとはいえ、音楽的には大人の内容です。端然とした優美な雰囲気と品格をそなえた、中級レベルの曲としてはきわめて珍しいタイプの作品と言えるでしょう。技術的にはそれほど困難なところはないものの、個々の楽器の美しい音色と合奏のバランス感覚、そしてスタイルに対する確かな理解が求められます。
 編成はほぼ標準的なものですが、分厚い響きは必要ではありません、25〜30名程度の演奏がちょうどよいでしょう。

後藤洋プロフィール




 山形大学教育学部特別教科(音楽)教員養成課程卒業。東京音楽大学研究科(作曲)、ノース・テキサス大学大学院修士課程(作曲および音楽教育)をそれぞれ修了。日本とアメリカの両国において、吹奏楽と音楽教育の分野を中心に作曲・編曲家として活躍。海外で出版される吹奏楽作品の紹介、また音楽教育としての吹奏楽の研究においても、日本における第一人者。自身が監修・編曲した『合奏の種』『合奏の芽』(ブレーン株式会社)は、音楽表現の基礎を楽しく学ぶ新しいアイディアの教則曲集として大きな反響を呼んだ。
 2011年、ウインドアンサンブルのための《ソングズ》により、ABA(アメリカ吹奏楽指導者協会)スーザ/オストワルド賞を受賞。また「ミッドウェスト・クリニック」(2006年および2010年、シカゴ)、世界シンフォニック・バンド&アンサンブル協会(WASBE)世界大会(2009年、シンシナティ)等、多くの国際的な講習会で講師を務め、いずれも高い評価を得ている。
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